魔法少女になれないや

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浮かんだのは家族や先生、それに友達。どれも大切で捨てようにも捨てきれない存在。存在を忘れ去られるというのなら、それぞれの思い出もなくなる。それは自分にも相手にも酷な話だ。 それにそんな日々が楽しすぎてどうにも捨てきれない。そりゃそうだ。けどそれと引き換えに生きる理由が手に入る。壊れかけのおんぼろ人形に心が宿るなんて素敵な話だ。 「あなたもみんなに忘れ去られたの?」 私は魔法使いに問うた。すると魔法使いは床を凝視し、語りだした。 「僕の場合、好きな子に忘れられました。一生共にいようと約束をしていたにも関わらず。街で見かけるといつも寂しそうな目をしてるんです。それを見ると恥ずかしなが塩水を垂らしてしまいます。」 私は静かにしゃがんで、頭を抱えた。気がつくと地面が湿っている。ぽとぽと、ぽとぽと、音がする事に染みは広がり、加速していく。 思い返すと、魔法少女にならないでいい選択肢を忘れていた。こんな自分を変えたいと願うあまり二択であることが盲点になっていたのだ。 「魔法使いさんは、どうして魔法使いになったんの?」 すると今度は自分に視線を合わせ、涙を止めながら言った。 「好きな子を幸せにしたかったからです。情けない自分、不幸な彼女、こうするしかなかった。じゃないと心が痛かったんだよ。柚愛(ゆめ)なら知ってるよな?」 …… 「どうして私の名前を知ってるの?」 私は死ぬ物狂いで記憶を辿る。探しても探しても見つからない。 わからないまままた頭を抱え込む。視界が朦朧とし、ぼやぼやとしいつの間にか言葉にならず嘆いていた。 そんな魔法使いは私を助けたそうに手を伸ばす。そんな手をはじき返す。それでも彼は私を助けようとする。何度も何度も私の手を探し、真っ暗になった世界で、ただ小さな手のひらを手繰(たぐ)る。 熱を持った何かが伝わる。見上げると彼は私を待っていてくれた。 「魔法少女になったら、あなたを思い出せる?」 「思い出さない方がいいよ?」 「それでも……。」 風が吹き、顔が(かじか)む。 「希望はある。でも、怖いよ?」 私はもう一度周りにいる人を思い出した。また怖くなった。 そのまま私はどうしようかと立ち悩んでいる……。 もしかすると、このまま11月を迎えれないのかもしれないなぁ。
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