本当の気持ち

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ピンポーン。 数日前と同じように慎重に静の家のチャイムを鳴らした。 俺はここまで来たくせに静に会うべきなのかどうかまだ迷っていた。 「静。 出てこなくていいからさ、聞いてくれよ」 俺はインターホンに向かって話し始めた。 「お前さ、俺に陸上辞めるって言ったじゃん。 …だけど、本当は辞めたくないんだろ。 陸上好きなんだったら、続けろよ」 「違うよ」 突然インターホンから静の声がしたかと思うとすぐに玄関のドアが開いた。 「静」 「僕は陸上が好きなわけじゃない」 「………何言ってんだよ、ずっと続けてきたのに」 「走ることなんかに何の意味もない」 俺は静の冷めた口調に言葉を失った。 「陸は僕への答えを誤魔化したままで、元通りにしたいだけだろ」 「………いい加減にしろよ!」 俺は思わず大声で叫んだ。 「別に誤魔化すつもりなんかねえよ! 親友なくすかもってときにすぐに答えなんか出る かよ!」 俺はさらにまくし立てた。 「陸上どうでもいいって何だよ。 顧問もお前のこと気にしてたし、俺にだけ辞める って言ったんなら、会いに行かねえとって思った のに」 静は口を食いしばってこぼれそうな瞳を一心に俺のほうに向けている。 コイツとずっと走っていたい。 辞めてほしくない。 だから何度もぶつかってんのに。 なのに、俺の口からは気持ちとは正反対のことしか出てこなかった。 「明日の試合、静は登録したままにしてもらってる。 けど、もういいよ」 静とはこれでもう終わりだと、俺は絶望の淵に立たされていた。
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