スタートライン

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いよいよ本番だってのに、どんだけ暑いんだよ。 まるで夏が戻ってきたみたいだ。 ジリジリと体力だけが奪われていく。 俺はレースのあと、グラウンドの真ん中でぐったりと座り込んでいた。 タオルを被った俺の頭にコーチの声がふりかかってきた。 「神原、大丈夫か? 不調でも何とか予選通ったんだから諦めるなよ」 「………うっす」 予選の俺の記録は最悪だった。 走ってるときも、いつもと違って風がちっとも流れていかないし、むしろまとわりつくようだった。 そして身体中が重くて動かない。 もう終わったと思ったはずなのに。 気持ち切り替えて走んないといけないのに。 このままじゃ、大学推薦までダメになる。 グラウンドに次のレースを促すアナウンスが流れた。 「男子100m予選3組に出場の選手はスタート横に待機してください」 俺は他の選手のあとに続いて移動しようとノロノロと立ち上がった。 その瞬間、日差しに目を奪われて視界が真っ白になった。 ヤバイ 、倒れるかも。 俺、このままどうなるんだ。 ダメだろ。 断ち切らないと。 断ち切らないと。 断ち切らないと。 ビュウッ! 突然、今までの暑さをかき消す冷たい風がグラウンドを吹きぬけた。 俺は風の勢いに負けじと必死で踏ん張り、何とか倒れずには済んだが、頭にかぶっていたタオルが思いきり飛んでいってしまった。 俺のまわりに、遮断していた世界が一気に広がる。 真っ青な空。 広いグラウンド。 そして………。 「しずか………」 グラウンドの入り口にじっと立ったまま、心配そうにこっちを見ている。 やっぱり、無理だ。 断ち切れるわけない。 「しずか━━━━━━ !!」 グラウンドに俺の声が響き渡った。
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