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エピローグ
日暮れが近づくにつれてどんどん気温は下がり、辺りはすっかりと今の季節を取り戻した。
ユニフォームだけでは肌寒さを感じるようになっていたけど、俺の体の中にはまだ決勝を走ったときの興奮の熱がくすぶっていた。
「陸」
静が床に落ちていた俺のジャージを拾ってパンパンと埃を払うと、俺に着るように促した。
荷物をまとめ終えた俺は、ジャージを無言で受け取って羽織ると、ボストンバッグを担いでスタスタと出口に向かった。
すると静もすぐさま、とっくにまとめていた自分のボストンバッグを背負った。
ちらりと振り返ってみると、大きな黒い瞳をキラキラとさせてじっと俺のあとを小走りについてきている。
ついてくる野良の子犬をむげに扱っているような罪悪感を感じて、俺は重い口を渋々開いた。
「助かった」
俺は決勝で、大学推薦の要件をクリアすることができた。
「静がいたから、決勝まで行けたんだと思う。
静が陸上辞めて困るのは俺だったんだ。
情けねえ話だけど、図星だよ」
静は今にも泣きそうな表情で顔を歪めながら笑った。
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