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口づけ
昨日から思考回路が止まってばかりだ。
あまりに信じられない言葉ばかり聞いているから。
それも唯一無二の親友から。
病気でもなく、嫌われてもいなかったんだから喜ぶべきか。
いや、結局一緒に陸上できないんなら悲しむべきか。
「………え?」
好きだと言われて俺がやっと出せた言葉はこれだけだった。
「ちょっと入って」
「!」
俺は静に両手を引き寄せられた。
俺の肩で支えて開けていた玄関の扉がバタンと閉まった。
「ごめん。
人目があるから」
確かに玄関先で騒いでるのはバツが悪い。
かと言って俺たちは会話をするわけでもなく、薄暗い玄関で手をつないで突っ立っているだけだ。
どうしたものかと静のほうを見下ろす。
静の頬が紅く染まっている。
唇はきゅっとかみしめられて、長いまつげはまばたきの度に揺れる。
こんなに間近でじっくりと静を眺めるのは初めてだった。
透きとおるような肌は同じ男とは思えないくらいきめ細やかで綺麗だった。
「僕のこと、気持ち悪い?」
「は?」
「だって、男友達から急にこんなこと言われたらひくでしょ」
静の手はうっすら汗ばんできている。
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