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第2章 バザールの老婆
いかにも怪しい・・・安物を高く売りつける典型的な店の風体を成す店内は入り組んだバザールの奥にあることも合わさって客などいなかった。
「それで、オンダハジメとタチバナユウキで良いんだね?」
奥にかかる大きな絨毯を持ち上げながら老婆は聞く。
慣れた手つき、その絨毯の裏にはそれ相応の入り口が存在することが想像でき、それを見せる段階で僕たちの名前も確信しているのだろう。
「あなたは<絨毯売り>ですね」
その返答に<絨毯売り>はニヤッとした後に絨毯の裏の木の板を持ち上げた。
そこには扉があり、老婆はそれも持ち上げる。
「入りな」
鋭い声で老婆が告げる。
外からは見えない構造になっているが、それでもモタモタする理由はない。
「あんたのような令嬢には不釣り合いな場所だがね、まぁ仕方ないね」
梯子を下るタチバナを見下ろしながら老婆が言う。
仕方ない、という言葉の持つニュアンスが令嬢のアンバランスさをからかったものでないことは僕にも彼女にもわかる。
「男はこういう時には得さね」
そして僕にも皮肉を忘れない。
この老婆はこうやって自分の持っている情報を小出しにしていくのだろう。
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