第2章 バザールの老婆

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「降りた先に鉄扉があるだろう、開けな」 扉は金庫式になっていた。 二桁の数字を入れるだけの簡単なものであるが、この老婆が100通りの番号を試す暇を与えるとは思えない。 「35でしょう、あのお婆さんの性格的に」 「そうだろうね」 タチバナが少し、苛立っているような表情を見せる。 彼女が苛立つ時はいつも同じ理由だ。 そして案の定、35で扉が開く。 「ヒッヒ」 これで開いたことで、この老婆の目的はハッキリした。 僕たちをからかいたいのだ。 「彼女は3番目の子供、僕は5番目」 「タチが悪い」 タチバナがハッキリと怒りを告げる。 僕は彼女ほど情緒豊かではないし、これから曲がりなりにも仕事をする間柄でこれはない。 「政略結婚にしか使い道がない存在が何を言うかね、こんなとこに飛ばされておいて」 タチバナも僕も分かっている。 これ以上話すことは、自分の情報を無条件で解放することであると。 「<絨毯売り>これ以上は仕事の意思なしと判断するよ」 僕も真顔で応じる。 毅然と応じているつもりだ。 「ふん・・・、人間らしさを出すつもりかい?」 そんな僕の言葉を老婆は冷たくはねのける。 この目は何度も見た。 僕が再試を受けさせられる時の教官の目だ。 「馬鹿だね、私がお前らの国直属の存在だからって甘えやがって」 場の空気が凍るのを感じる。 何かヘマをした空気。 僕の内臓が強張るのを感じる。 「仕事しないなら、無力化しろ馬鹿が」 僕が強張っている間。 強張りは判断力、五感の低下を招く。 しかし、それでも僕たちの命を奪える範囲に一瞬で入り込んでいる老婆の動きは熟練なものだった。 「お前らは死んだ、下手をしたら人質で母国を敗戦に導く、そんだけのことをしでかした」 そう言って老婆は僕たちの鳩尾に蹴りを入れた。 僕たちの意識は痛みを認識した途端に遠のくことになった。
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