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<絨毯売り>はこの地下空間にちょっとした庭園を用意していた。
それは部屋を明るく照らす以外はこの当たりにある水源に身を委ねただけのようなささやかなものだった。
地下に自然を再現する身勝手さはそこには何もなく、本当に自然だった。
「凄いね、この光景はどんな権力者でも作れない」
<絨毯売り>がたまたま水が湧くところを見つけたのだろう。
この地下室を作った際に見つけてしまって、本来地盤の関係やらで別の場所に移すところをあの老婆はそれでもここを隠れ家に選んだのだろう。
「そうね、この偶然の恩恵に心の底から感謝をしているのが伝わる」
花一輪すら植えられていない。
川の流れを岩で簡素に制御しただけで、後は雑草の処理だけしている感じだろう。
しかし、川の流れと岩と手入れの行き届いた空間はそれだけで緊張感を解いてくれる。
「タチバナ・・・ごめん、僕は君を殺した」
「こちらもよ、私も君を殺した」
あの<絨毯売り>に成す術なく倒された時、その状況を招いた時。
お互いはお互いを殺している。
守れなかったのは相手が強かったのではない。
自分たちが甘かった。
「この仕事に就いておいて、甘いことをお互いに言うもんだね」
「そうね」
僕たちは<死神>。
<死神>は僕たちの国にある良くわからない組織の名前だ。
「でも、卒業試験の時、私たちは誓ったはずよ」
「うん、そうだね」
川の流れを眺めながらタチバナは僕を見ることなく言った。
甘いのは百も承知だと。
「私はあなたがいないと強くあれない」
「僕は君がいないと強くあれない」
川を眺める彼女に背を向けた。
背中合わせで僕たちはお互いの遠い日の誓いを口にする。
ここでお互い向き合えないことの意味を知っていながら僕たちはこうやって意思確認をする。
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