4章 ヘクター=アクシディアス

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「そうか・・・西方が弾き返されたんだからそっちの方が死んだ」 西方文化圏の決まりでは戦時中に民間人には極力手を出さないようにするらしい。 (もちろん、ある程度の混血児が生まれることにはなるがそれも東方同士の戦争に比べると遥かに少ない) それならば純粋に軍人同士のぶつかり合いでその被害は想定できる。 そして重要なのは西方文化圏が潰走した事実だろう。 例えば、東方文化圏の兵力、兵器が優れていたなら容易に押し返したはず。 それがなされていない。 ならば、西方文化圏の力は互角以上だったのだろう。 それが大量に死んだ。 理由なら・・・ 「伝染病か」 オンダが呟くとヘクターが「ほぅ」と口にした。 「そう、伝染病だ、東方文化圏は西方を怒らせたくないから、西方はその名誉ゆえに口にできないがそれぞれの領土に固有の病が兵士を殺した」 それはそうかもしれない。 西方は強力だったのだろう。 それなら東方は怒らせたくない。 意気揚々と征服に行った栄誉の軍隊がたかだか風邪に潰されたなど笑い話にもならない。 「伝染病は耐性を持つものには何ともないが耐性を持たないものには猛威を振るうからな」 タチバナはその時、別のことに頭を巡らせた。 何故、遠い昔の聖誅軍の話をするのだろうか、と。 それこそ潰走の理由など、冷静に考えればどうでも・・・ 「そう・・・ここはクア=ケファルの様式だったわね」 「勘がいいじゃないか、あんたたちこのルカスクが<災厄の地>だと呼ばれていた時期があるのを知っているかい?」 「トガル帝国の奴らなら刷り込まれる、邪悪なる神<イル=アラール>が太古にバスティア山脈を越え栄光の帝都を闇に包んだおとぎ話は有名だからね」 バスティア山脈、ルカスクそして帝都の関係 邪神などはメタファーだった。 「そう・・・伝染病で死んだのは東方も一緒だった、そして・・・それをこのルカスクは持っているのね」 「持っているのではない、みんなが潜在的に体に忍ばせている」 伝染病の運び手にこの都市の住人がなっている。 そして、それが耐性を持たない者に感染した時、それはその本人に牙をむく・・・ 「ちょっと待て・・・」 オンダはしかるべき疑問を口にする。
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