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窓の外では、大粒の雪がしんしんと降り積もっている。冬は本当に静かな季節だ。
心地よい沈黙の中だと、自然にふるまえる気がした。つい、なんでもない言葉が口を出る。
「趣味が仕事になるなんて、僕には考えられないけどな。今も、写真が好きなんだね」
「うん。たぶん。むしろ前より、好きになったかも。」
彼女は少し姿勢を直した。
「ファインダーを覗いているとき、私はただのカメラマンになるの。」
「仕事のこととか、お金のこととか、時間とか、不安とか希望とか、誰かのこととか、自分のこととか、どうでもよくなるの。すると、身体が隅々まで、被写体の方を向くの。
あとは、ここだって時にシャッターが切れるように待ってるだけ。そう考えると絵描きの人って大変ね。カメラはたぶん動物でもできるけど、絵は人じゃないと描けないから、きっと重労働だ。」
「そうかな、わざわざカメラを使わないといけないから、どちらも大変だと思うけれど」
たしかに!
彼女の中で、なにか合点がいったようだった。上機嫌な彼女を見ていると、こちらもいい気分になる。
遅めの昼食が終わるころには、あたりはもう薄暗くなっていた。
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