待ちびとへの恋文

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今はもう亡き義母に電話を繋いでもらい、緊張のあまり公園としか伝えられず、広い公園の反対側でわたしも待っていた。 来る途中で何かあったのではないか、もしかしたら他の用事が出来たのではないか、と頭を巡らせていた。 しかし妻はそんな事は少しも考えず楽しいと──楽しい、と。  焼けた喉に唾を飲み込み、白髪の頭を撫でつける。  わたしたちはもう年老いた。 しかしどうだ、妻はわたしに新しい事を教えてくれる。 楽しみを教えてくれる。 「まったく……実に君らしい」  わたしの一等、自慢の妻らしいじゃあないか。  茶箪笥に手を伸ばし、引き出しからボールペンを取り出す。 さあ、どんな物語りにしようか。  まずはそうだな、この言葉を君に聴かせよう。 初めてのデエトの日、わたしは一時間半も待たせた君にこう言った。  ──やあ、お待たせ。  ゆっくりと綴ってから、藍色のセーターでまた会いに行こう。
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