待ちびとへの恋文

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 また首を傾げた。何も書かれていない、真っ新だったからだ。 そしてもう一つのもの──折り畳められた便箋があったからだ。 本を置いて便箋を開く。 数枚の便箋には、見慣れた文字があった。 妻の文字だった。  わたしは妻から手紙をもらった事は一度としてなかった。 いつも言葉で、耳にしてきた。 初めての文にわたしは、喉を焼いた。 ────  あなたへ  きっとこの文が読まれている今、私はさようならを言われた後の事でしょう。 鍵を見つけるのに骨が折れましたか。 少しの悪戯を仕掛けました。  待ちくたびれましたよ。 あなたはいつも私を待たせていましたからね。  初めてのデエトの日を覚えていますか。 携帯電話もない時代でしたから、待ち合わせをした公園で私は一時間半もあなたの事を待っていました。 近くに公衆電話もなく、ただただあなたを待っていました。
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