待ちびとへの恋文

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 私はその日がとても楽しかったのです。  どんな様子で来るのだろう、どんな服で来るのだろう。 そんな事ばかり考えていたらあっという間に時は過ぎていました。  あなたは藍色のセーターを着ていましたね。 急いだ髪は少おし乱れて汗を浮かべていました。 自分の事は少おしも覚えていないのに不思議なものです。 遠い日は未だ鮮やかです。  十分に仕合わせな時をご一緒させていただきました。 あなたが夫で幸せでした。 私が先に逝く事をお許しください。 そしてどうぞゆっくりと、こちらへ来てください。  私はあなたを待つのが一等、好きなのです。  この本は私からあなたへの贈り物です。 こちらへ来た時、あなたの物語りを読み聞かせてくれたらと思います。  どうぞゆっくりと、ゆっくりと。 ────  ああ、思い出した。 わたしはおろしたての藍色のセーターで妻に──君に会いに行ったのだ。
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