泡沫の恋

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「……あー、えっと、大丈夫でしたか? すみません、捕まえられなくて」 「あ、い、いえ。本当に、助かりました。ありがとうございます。私一人じゃ怖くて、何も出来なかったので」  そう言ってようやく顔を上げた女性は、越谷が想像していたよりも、普通の顔立ちをしていた。越谷は勝手に、「痴漢されるくらいだから美人な人なんだろうな」と思っていたのだ。  勝手に失礼なことを考えていたとも知らず、目の前の女性は何度も小さく頭をぺこぺこと下げながらお礼を言っている。混んでいるので小さくしか頭を下げられないのだ。 「あの、どちらの駅で降りられますか?」 「え? 次の駅ですけど」 「私もそこなんです。あの、よろしければお昼にどこかでお茶でもしませんか? お礼がしたくて」 「え、いや、そんな」  申し訳ないからと越谷は断るも、女性はどうしてもお礼をしないと気が済まないと言って引き下がらない。こんなにも女性に何度も感謝されて、越谷も悪い気はせず、お昼休憩の時間を告げる。そしてその時間、また駅前で待ち合わせをするということになったのだ。
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