未定

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未定

 ペンキ汚れの目立つ、おそらく以前は白かったのであろう作業着を身に纏った初老男とすれ違った。チタン製だろうか、本来は銀一色であるはずの眼鏡の弦にも、赤や黄や緑の点がいくらか付着していた。作業用手袋をしたまま平気で眼鏡を触れるタイプの職人なのだ。雑な仕事しかできないバカか、よほどの芸術家肌か、そのどちらかだと思った。 「オオタニとコニシの木偶の坊コンビを行かせることになってよぉぉ」と彼は電話で話していた。  俺は思わず走る速度を落としてしまった。  翌日だか翌週だか、或いは翌月だかの現場作業の件だろう。それがいつ行われようがどうでもいい。気になったのは作業員たちの愛称だ。  オオタニ(たぶん大谷)は大きそうで、コニシ(きっと小西)は小さそうだ。なのに、なぜ【デコボココンビ】でなく【木偶の坊コンビ】なのだ、大谷だけでなく小西もデカいというのか、大小西なのか、と俺はすれ違った後もしばらく、彼と彼の電話機に鋭く熱い視線を送っていた。やはり電話機も斑に汚れていた。空いている方の手を挙げ、黒いタクシーを止めると、彼は「北へ」とだけ運転手にだけ告げた。  バカ寄りの芸術家だ。     
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