0人が本棚に入れています
本棚に追加
**********
A「雪が、やみませんね」
パチリ。彼女はシャッターを切った。
B「そう、だな」
レンズの先には、薄く雪の積もった椿の花。雪の隙間から、その鮮やかな赤色を覗かせている。
B「……よく、目立つな」
A「そうかな」
B「目立ちたがりみてぇだ」
A「……風が、冷たいですね」
B「そう……だな……」
先程から――彼女の付き添いとはいえ――ほとんどの時間をしゃがんだ姿勢のまま動かずに過ごしていたため、段々と体の芯が冷えてきていた。
B「……寒く、なってきたな」
俺は、ポケットに手を突っ込んだ。
A「懐炉?」
冷え切った手が、内部の方から温まっていく感覚。
B「ああ、もう一つあるから、やるよ」
A「うん」
彼女はそれを受け取って――パチリ。シャッター音。それから彼女は、両手で懐炉を叩き始める。
A「あたたかい……」
B「まだ、新品だからな」
しばらくの間そうしたのち、彼女は立ち上がった。釣られて俺も立ち上がる。
A「行こっか」
B「次はどこ、行くんだ」
A「さぁね」
彼女はいたずらに笑うだけだった。
B「おい、ちょっと待てよ」
言うと、彼女は数歩進んだところで立ち止まり、振り返った。
B「……なんだよ」
A「今日は、暖かいですね」
B「……何、言ってるんだ」
A「さぁ、ね」
**********
最初のコメントを投稿しよう!