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夜、七時。見回りの人間が鍵を掛ける音がする。雨音に掻き消されそうな小さな音だが、確実に捉えた。
そこから数秒、人が消えた事を念入りに確認する。何度も何度も、確認する。
その工程を終えて、やっと私は一歩踏み出した。棚の裏から表へ、ゆっくりと姿を見せる。そうして、点した懐中電灯を前へと向けた。
「静希、居るか?」
「…………居るよ」
同じようにして、青年が棚裏から出て来た。懐中電灯の明かりでは、お互い淡くしか姿が見えない。
だが、お互いをお互いと確信するには、声だけで十分だった。
今、図書館には自分達しかいないのだから。
「早速行くぞ。確か場所は……」
目的は二つ、まず一つは噂の本を探す為だ。そして、真の目的とも言えよう二つ目。それは、とある少女を蘇らせる事だった。
その為に、今の今まで隠れていた。鍵係も、人が残っているとは思わないのだろう。遣り過ごすのは容易だった。
スマートフォンで、噂を取り扱うページを見る。暗くなった部屋の中、放たれる光は眩しい。
こういう記事はオカルトチックなレイアウトの物が多いが、今見ているページは極普通のホームページと変わらなかった。的確な場所や経験談まで記載されており、今まで見た物とは明らかに空気が違う。
最後の希望をかけ、図書館に忍びこんだと言っても過言ではないかもしれない。
「……今回こそ会いたい」
静希の、暗く小さな声が耳に触れる。見えないが、表情まで読めた気がした。俯いていて、元気の無い顔が。
「絶対大丈夫だ。今回は上手くいく」
「……うん。絶対、取り戻そう」
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