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「えっと……私――」
「そこをなんとか! お願いします!」
食い気味に前へ出て、がっしりと片手を握られる。まだ何も言っていない。
「一回千円――いえ、一万円でも払いますから! ね? ね!?」
あまりにも必死に交渉してくるものだから、思わずクスッと笑ってしまった。
「言ったわね?」
「はいっ!」
「聞いたからね?」
「……はい」
再確認されて自分が口走った事の大きさに気づいたのか、あからさまに小さくなった返答に、また笑う。
面倒事は嫌いだ。いつもの私なら、振り払ってでも断っていたかもしれない。
けれど、ほんの少しの情けをかけてしまったのは、ずいぶんと薄れてきた記憶の中に、
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