4.平凡な日常

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「本当に、昨日の先生の謎解きはすごかったですよね!」 そう言って、月曜日の朝イチの二時限続きの講義後に、すぐに教卓で半ば倒れるようにして突っ伏している男の前で、ひどく興奮気味に身振り手振りを交えて話しているのは、考古学研究室研究員兼准教授助手の松野。 いつもであれば、さすがに寝ている相手に向かって自分勝手に話すほどには自己中心的ではない松野も、この日ばかりは抑えることができないでいる。 「まず、あのモノクロの映像から数少ないヒントを見つけたのがすごい!」 「………」 松野はよれよれの白衣を頭から被り、考古学研究室準備室に戻る気力すら失われ、教卓で睡眠を取ろうとしている自分の上司、准教授に向かって思わずタメ語を交えながら話している。当然男から相槌(あいづち)もなければ、全身すっぽりと白衣に隠れているため、(はた)から見れば誰に話しかけているかも分からないほどだ。 「ああ!誰かに言いたいけど、教えたくない。こんなすごいこと、私だけの秘密にしたいくらい。でも、やっぱり自慢したい!先生、この気持ち分かります!?」 「………」 「しかも、あんなに饒舌(じょうぜつ)に話す先生、生まれて初めて見ました。いつもあれくらい喋ってくれればいいのに!ね、黒音(くろね)先生?聞いてます?」 「…聞いてません…」 松野は結局警備のバイトの仕事が終わってからも、一睡もできなかった。本来ならば、朝5時に仕事が終わり、そのまま帰宅して次の午後の講義まで泥のように眠るのだが、一晩経過しても少しも興奮が冷めやらなかった。それほど、昨夜の出来事は松野にとって天変地異とでも言うべき波乱の展開であった。
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