【Prologue】裏稼業

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「あれ…おかしいなぁ。確かここに…」 「おい!お前!!!聞いてるのか!?何を探している!まさか、武器か!?それともー」 異形のものが口を再度開きかけた瞬間、鋭い閃光(せんこう)が異形のものの目の前を横切り、何かが生暖かい疾風と共に走り去る。 「ああ、悪い悪い。ポケット違いだったわ。いつも左側のポケットに入れてたはずの “これ” 。今日はいつでも取り出せるように、ってのと、学会では上着も脱ぐからね。右手の袖の中に仕込んでたんだった。ちなみに、これは武器じゃないよ。俺の大事な相棒さ。って、何もない所に向かって、独りで喋ってしまった」 疾風は異形のものを飲み込むと、キラキラと自らを光源にして、空へと舞い上がる。無数に別れた小さな光が、空一面へと散らばり、夜空に星を散りばめた。疾風はその場にあった鬱屈(うっくつ)した空気をも取り込み、連れ去ってくれたようだ。 その様子をしばらく眩しそうに見つめていた男は、何かを思い出したように大きく欠伸をする。 そして重そうな外套を羽織り、脱ぎ捨てた帽子を拾い上げ、軽く叩くと再び目深に被る。それから、来る時よりも幾分重くなった鞄を持ち上げると、来た方向へと踵を返す。 すでにみなとみらいの街には夕暮れは落ち、夜の(とばり)がすっかり空を支配していた。 迷い込んだ者を待ち受けるのは、ただの闇だけとなり、空風が時折吹いては、色付き始めた紅葉を舞い上げる。 先程までの多少のやかましさが懐かしく思えるほど、この場所には何も残されていなかった。 ただひとつ、かすかに()えた臭いだけを残して。
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