【Chapter 1】1.準備室の主

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古びたカビの匂いで満たされた広さ6畳ほどの準備室で、あたかも時の流れに埋もれるように、古い書物に覆い尽くされ、文字通り埋もれている男がいる。 その男は日がな1日、この狭っ苦しい室内で過ごしているが、大概は “学会の準備” と言いながらも、ただ寝て過ごしている。どこかのホテルのドアに掛かっていたであろう「DO NOT DISTURB(邪魔しないでください)」と書かれたドアプレートが年中この準備室のドアにも掛かっているが、すっかり薄汚れてNOTの文字は消えかかっている。とは言え、この部屋の主を起こそうとしても土台無理な話である。 陽のほとんど射さないここ考古学準備室は、多種多様な珍しい物で溢れている。前述したように、古い書物もゴロゴロ転がっていれば、壁には不気味な謎のお面、いわく付きの絵画など、室内の至る所に世界中のコレクターが泣いて欲しがるお宝までも転がっている。しかし、この部屋の主と化している男にとって、 “ただ古い” だけの物には何の価値もなく、こうやって陽の目を見ることなく、ひっそりと息づいているのだ。 そんな時の流れが停滞した場所でも、時を知らせる(にわとり)のような役割を担う者はいるものだ。 「んもう!先生ってば、3日間誰にも行き先を告げずに出かけたと思えば、帰ってくるなりこんなとこで布団もかけずに寝て…。一体何考えてるんですか!分かってます!?丸一日ですよ!?24時間!!!」 ドアをノックもせず飛び込んできては息巻いているこの女性は、考古学研究室の研究員。 そして、先生と呼ばれた男こそが本作主人公。 「黒音(くろね)先生!?聞いてます?寝たふりしたってバレてますからね!」 「んー………」 「仕方ないですね。学食閉まっちゃいますよ!?早く起きないと夕飯食べ損ないますけど、いいんですか?今日のメニューは肉じゃがだそうですよ、にくじゃが」 「肉じゃが!?」
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