最期のお肉

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最期のお肉

肉の焼ける音と匂い、食器同士が擦れる音。 何の曲なのか分からない下手くそな鼻歌も聞こえる。 機嫌がいい時のお兄ちゃんもよく鼻歌を歌っていたけど、ここまで下手くそじゃなかった。 それも何の曲なのか分からなかったけど。 そういえば今日、私の誕生日じゃん。 お兄ちゃんが焼肉と、日曜には水族館に連れてってくれるって言ってたな。 社会人になったばかりのお兄ちゃんのことだから、どうせ近所の安い食べ放題の店だろうけどね。 部活でめいっぱいお腹空かせて帰ろうと思ってたのに、これじゃもう走れないよ。 あいつが焼いてる肉、私の脚だもん。 あいつ、一回だけ会ったことある。 お父さんの仕事の関係の人だったかな。 「由起さん、陸上部なんですか。良い形の脚をしてますね」 って、じろじろ見てきて気持ち悪かった。 しかも勝手に下の名前で呼んでるし。 あいつの名前なんだっけ…顔面と同じでカエルみたいなの……ほんと気持ち悪い。 頭がクラクラして…眠くなってきた。 このまま全部あいつに食べられるのかな。 いっそ海に放り込んで欲しい、どうせ食べられるなら魚とかにさ。 水族館も行きたかったな。 なんなのあいつ。 こっち見んな。 私の脚、美味しそうに食うな。 マジむかつく。 お兄ちゃんのドヤ顔よりむかつく。 帰りたいよ……お母さん…お父さ……おに…い……
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