届けられた由起

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届けられた由起

一年勤めていただけの製薬会社を辞め、適当なバイトをしながら、住んでいるアパートの近くにある病院へ通っては、入院中の母親と昔の話をさも現在起きているように話す。 それが睦月隆の日課だった。 日課といってもほんの数年前から始めていることだが。 数年前は仕事も住んでいるところも苗字も違うし何より母親は元気で、生意気だけど見ようによっては可愛い妹がいた。 高校に入ってからますます生意気に磨きのかかった妹、由起の誕生日。 社会人としての余裕と兄の威厳を見せるため焼肉を奢るのと、別の日に水族館でジュゴンだかマナティーだかの大きなぬいぐるみを買う約束をしていた。 妹の部活終わりの時間に合わせて定時であがり帰宅すると、母が夕食の準備をしていた。 「おかえりなさい、隆のほうが早かったわね。ご飯、あなたたちの分は作ってないからね」 誕生日は家族で祝うつもりだったが「お兄ちゃんそんなにお金ないでしょ」という由起の気遣いのおかげで2人焼肉へ行くことになっている。 しかも何故か仕事着のままが良いとのことなので、着替えることも出来ない。 仕方がないので少しだけネクタイをゆるめ、リビングのソファで待つことにした。 テレビでは今朝見たものと大して変わらない映像が映し出されている。
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