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脳内戦争
空に丸い月が浮かぶ。この時間はほとんど誰も立ち寄らない公園の茂みの裏の土を掘る。
茂みを形作る背の低い木や、その裏側に並ぶ背の高い木の根が張っているのか、土は存外硬い。仕方ないから手にしたスコップで少しずつ、土をほぐしていく。そうしながら、たぶんこれは、いけないことなんだろうなあなんて、他人事みたいに考えた。
不法投棄? そもそも公園の土って掘っていいのだろうか? いくつかそんなもやもやした不安が浮かぶが、もやもやしているから、見なかったことにする。
土を掘って、掘って、掘って、一月の特に寒い日だから着込んでしまったのが祟って、汗が滴って、暑いなあなんて考えて。
そうしてできた、穴がひとつ。そんなに大きくはなく、深さもそれほどないものだ。でもそんな、ちっぽけな穴で問題ない。地面に転がしていたそれを手に取る。
カサカサ、ビニールが擦れる音。ささやかなのに、夜の闇には響いて聞こえる。
引っ張り出したのは、一冊の本。『アリス』というタイトルだ。よりにもよってアリスなんて名前にしちゃったせいで、同じ本がこの世にあと百冊はありそうな、それでも、私にとっては、私だけの、私の『アリス』。
どんなにつまらなくても、どんなに汚らしくても、一生懸命に書いて、一生懸命に綴って、そしたら父が「製本しよう」なんて言い出して、どこかから製本用のキットまで買ってきて、そしたら母がイラストまで描いてくれて、可愛らしいイラストが彩っている、私の、『アリス』。
でも『アリス』。今日で、あなたと私はさようならなんだ。
あなたのことは嫌いではなかったけれど、でも、もう、側に置いておきたくないんだ。
土の穴に、本を置く。上にちょっとずつ、土をかける。私の『アリス』が、死んでいく。
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