写 真

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 かすかに彼女は呟くと、苦笑いを浮かべる。 「ほんとは私、こんなかわいい女の子じゃないんですけどね」  そんなことは言わなくても分かってる。ぼくが「見た」のは、彼女が設定しているアバターだ。でなければ、こんなアニメチックな女の子が現実にいるはずがない。  そう、これは脳内に埋め込ま(インプラント)れたSAD(感覚拡張装置(Sensory Augmentation Device))が見せている幻なのだ。しかし、これのおかげで人間は今や容姿の美醜というコンプレックスから完全に解放された。外見だけなら、人は皆なりたい自分になれるのだ。  21世紀初頭には既にその兆しが見えていた。あの時代、自撮りをアプリで「盛る」なんてことは日常茶飯事だった。インプラントMR(複合現実(Mixed Reality))の発達で、今はその「盛り」を現実に重ねられるようになった、というだけの話だ。それも大した技術じゃない。  人間の目の水晶体もレンズである以上、収差(しゅうさ)という歪みは存在する。いや、それよりも重要なのは、目の受光スクリーンである網膜には盲点という穴があいている、ということだ。にもかかわらず、人間の視界には収差はないし、盲点も人の意識に上ることはない。     
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