写 真

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 結局、人間も元々脳が修正(レタッチ)した視界を現実として認識しているのだ。SADはその脳の修正能力を文字通り少し拡張しているに過ぎない。 だけど。 「そのカメラには、真実が写ってしまいますね。真実は時に残酷だ」 「でも、それがいいんです。それこそ本来の『写真』ですから」  そう言って、Aはいきなりぼくにカメラを向け、シャッターを切る。そして、これまた年代物のフラッシュメモリカードをカメラから抜き取り、それを指でつまんで両目を閉じる。 「……素顔のBさんも、なかなかかっこいいですよ」 「それはどうも」 お世辞と分かっていても、嬉しかった。 「あなたの素顔も見たいな」 「え……」彼女は困った顔になる。「そんなの、レディに対して失礼ですよ」 なんて古風な言い方。 「今時そんなこと言う人いませんよ。都合の悪いときだけレディにならないでください。男女同権」 「……もう、しょうがないですね」  意外にあっさりと、彼女はぼくにカメラを渡した。先にぼくの素顔を見ていたから、かもしれない。  ぼくは彼女にカメラを向け、シャッターを切る。そして、彼女がやったように、カードを抜いて接続端子を指でつまみ、目を閉じて視覚を遮断する。BIがカードからデータを読み込み、ぼくの脳にそれを直接届ける。こうしないと、彼女の素顔は認識できないのだ。     
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