1人が本棚に入れています
本棚に追加
/4ページ
結局、人間も元々脳が修正した視界を現実として認識しているのだ。SADはその脳の修正能力を文字通り少し拡張しているに過ぎない。
だけど。
「そのカメラには、真実が写ってしまいますね。真実は時に残酷だ」
「でも、それがいいんです。それこそ本来の『写真』ですから」
そう言って、Aはいきなりぼくにカメラを向け、シャッターを切る。そして、これまた年代物のフラッシュメモリカードをカメラから抜き取り、それを指でつまんで両目を閉じる。
「……素顔のBさんも、なかなかかっこいいですよ」
「それはどうも」
お世辞と分かっていても、嬉しかった。
「あなたの素顔も見たいな」
「え……」彼女は困った顔になる。「そんなの、レディに対して失礼ですよ」
なんて古風な言い方。
「今時そんなこと言う人いませんよ。都合の悪いときだけレディにならないでください。男女同権」
「……もう、しょうがないですね」
意外にあっさりと、彼女はぼくにカメラを渡した。先にぼくの素顔を見ていたから、かもしれない。
ぼくは彼女にカメラを向け、シャッターを切る。そして、彼女がやったように、カードを抜いて接続端子を指でつまみ、目を閉じて視覚を遮断する。BIがカードからデータを読み込み、ぼくの脳にそれを直接届ける。こうしないと、彼女の素顔は認識できないのだ。
最初のコメントを投稿しよう!