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さらり、さらりとペンを走らせる音が心地良く響く。
ふたりきりの病室には、ゆっくりとした時間が流れていた。
「何を書いているんだい」
僕は興味本位で尋ねる。
「日記だよ」
ベッドに腰掛けて筆を走らせる彼女はそう答えた。
僕はますます分からなくなった。
「日記ってそんな一気に何日分も書くものだったか?」
少しからかい混じりの口調で言う。
すると彼女は、少し恥ずかしそうな顔になった。
「これはね、これからのことを書いた日記なの」
僕は目をぱちくりさせる。
そんな僕を見て、彼女は更に続ける。
「これから君と一緒にしたいなって思うことを書いてるの」
僕はそれを聞いて少し泣きそうになった。
それは純粋な生きたいという願い。
「…絶対に叶えよう」
僕は決心したように言った。
「約束だよ」
彼女はペンを置くと、僕に向かって小指を立てた。
「分かった、約束」
僕たちは淡い希望にすがって指切りをした。
冬の寒い風が、病室の窓をかたかたと揺らした。
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