認めてあげない

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私は、今日もいつもの言葉で失恋する。 夕暮れ、校舎裏、長く伸びる影。さああ、と漫画よろしく思わせぶりな風。全てが完璧ともいえる舞台だ。風が"彼女"の髪を拐うように揺らした。 「だめだよ、私たち女の子同士なんだから」 そう言った彼女は眉をハの字にして、目を細めて、ゆるやかに微笑んだ。その顔がどうしてか腹立たしくて、私はいつも眉を吊り上げてしまう。 「嘘つき。たかちゃん、どう見ても男の子じゃん」 ぐさり、と彼女に刃を突き立てる。たかちゃんは困ったような表情を変えぬまま、そうだね、と頷いた。私は彼女が好きだけど、こういうところは嫌いであった。認めるのかよ、と心の中で毒づく。 「そうだねって言うなら髪切っちゃえばいいのに。先生にも怒られてたじゃん。男の子なのに、変だよそんなの」 ぐさり、ぐさりぐさりぐさり。彼女を傷つけると分かっていて、私はそう言葉を発した。故意の犯行だ。彼女にはそれを咎める権利があるはずなのだ。けれど、いつだって彼女は悲劇のヒロインじみたむかつく顔をしてそうだね、なんて言いやがるのだ。私はふん、と鼻を鳴らした。 「たかちゃん、明日も放課後校舎裏に来てね」 「ちょっと、英理ちゃん」 「なに」 「何回も言ってるけど、答え、変わらないよ」 「来ないつもり? 私、たかちゃんが来るまでずーーーーっと待ってるから!」 「英理ちゃん」 まるで宥めるようにたかちゃんは私の名前を呼んだ。そんなので懐柔されるほど私は甘くないのだ。 「待ってるから! じゃあね」 私はそう言うと逃げるようにその場を後にした。秋の風が冷たく私の頬を撫でる。夕日はほとんど沈みかけていて、なんとなく寂しい気持ちになった。
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