認めてあげない

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たかちゃんこと相田貴之は、私の幼馴染である。たかちゃんは穏やかで優しくって、私の王子様みたいな存在だった。幼稚園の頃の私の将来の夢は「たかちゃんのお嫁さん」なくらいである。しかしながら、たかちゃんは彼でなく彼女であったらしい。それを私に話してくれたのが小6、つまり2年前のことだ。たかちゃんから「僕……私、本当は女の子なんだ」と告白されたとき、それはもう混乱したものだ。冗談かと思ったし、そういう知識が殆ど皆無だった私は、その発言を全く信じていなかった。「何言ってるの」なんて言いつつ、現代っ子である私は帰宅して即ネットで検索した。そうして、体が男で女の人だとか、体が女で男の人だとかが思った以上にたくさんいるんだって知ったのだ。なんでも、性同一障害とか、トランスジェンダーとかいうらしい。未知の世界すぎてわけが分からなかったが、私は私なりに見知らぬ彼らやたかちゃんのことを理解したつもりだった。幼馴染の大切なたかちゃん。彼が彼女だと言うのならそれはそうなのだろう。明日、性別なんてどうでもいいよ、どんなたかちゃんでも好きだよって伝えようではないか。--そこまで考えて、これは大変困った事態であると私は気づいてしまった。つまりは、彼が彼女だとしたら私のこの気持ちはどこに持っていけばいいのか? ということである。おそらく、たかちゃんの性的嗜好は男性であるはずだ。私は心身ともに女性であった。え、じゃあ私はたかちゃんと結婚できないの? 輝かしい未来図ががらがらと音を立てて崩れていったのがわかった。そんなのは認めたくなかった。ネットでは、思春期に自分は性同一障害なのではと悩んだが、実際は違ったという体験談が載っていた。もしかしたら、たかちゃんだってこれと同じケースかもしれない。仮に違ったとしても、たかちゃんに「あなたは男だ」と言い続けていれば洗脳できるかもしれない。 ……というわけで、私はたかちゃんに毎日告白するようになった。男になってくれますようにという願いを込めながら、彼女が傷つくであろう言葉をわざと選ぶ。 ひどいことをしているという自覚はあった。けれど、私はたかちゃんのことがどうしても諦められなかったのだ。
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