認めてあげない

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「どうしたの、それ」 たかちゃんとは同じクラスではない。登校も私がギリギリまで寝ているタイプだからいつしか別々になった。だから、放課後になるまで気がつかなかった。 「気分転換だよ」 にこりと笑うたかちゃんの髪は風に揺れなかった。理由は簡単なことだ。たかちゃんのさらさらと真っ直ぐに降りていた髪がツンツンとあちこちを向いている。その髪型は、たかちゃんにとってもよく似合っていた。今のたかちゃんは、どこをどう見てもものすごく男の子だった。なのに、どうしてか嬉しい気持ちが湧いてこない。 「わ、私が変って言ったから?」 ふしぎと声が震えた。見ていられなくて、私は地面に視線を下ろした。濃い影が2人分、交わらないまま長く伸びている。なんとなく、校舎の影に隠れたい気持ちになってくる。 「違うよ。先生に怒られちゃって。まあ、校則違反だったからね。……男子学生は髪を肩まで伸ばすなって」 やっぱり、たかちゃんは困ったように笑った。笑うことない。なんで笑うのかよく分からなくて、私は唇を噛んだ。乾燥したくちびるにピリッと痛みが走ったけれど、そんなのは知ったことではなかった。 「何それ。変だよ。たかちゃん、女の子なんじゃなかったの?」 「え」 たかちゃんは目を見開いた。風が吹く。髪が揺れない。シャンプーを変えたのかいい匂いだってしない。背は私より高くて、肩幅もがっちりしていて、黒い詰襟を着ていて。誰が見たって、目の前のひとは完全に男の子だった。男の子でしかなかった。その、ふつうで、ありふれた事実に、どうしてか私は泣きそうになってしまう。
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