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第1章
「反・無駄死に」 青野ミドロ
L氏の息子は高校生。ある日、興味半分で買った一冊の本「殺人マニュアル」を隠して学校に持ち込んだら、持ち物検査で先生にカバンの中身を探られバレてしまった。L氏の息子が殺人マニュアルを持ち込んでいた話はあっという間に学校中の知る所となり、その事実をツイッターにつぶやく者、その本をインスタグラムにあげる者など多数相次いだ。その後ネット界隈の住所特定マニアによってL氏の息子の名前と住所がネットに書きこまれ、いわゆる晒し者にされた。「高校生が殺人マニュアルに精通」「未来の殺人鬼の温床」「社会のダニは死ね」好き勝手なことがネット上に書かれた。家に石を投げる者もいた。やがて報道でも取り上げられ、高校生の将来を懸念するコメンテーターがでてくるタイミングで、これまでのお祭り騒ぎを気に病んだL氏の息子は首を吊って自殺してしまった。
L氏は妻とともに息子の死を嘆き悲しみ、やがて立ち上がって訴えた。
「一介の高校生が殺人なんて大それたことが犯せるはずもない。あくまで趣味の範囲内で楽しんでいただけだ。殺人マニュアルを所持することのどこが悪い。悪いのは社会的に息子を抹殺した周囲の人々たちだ」
L氏とその妻はあくまで殺人は悪いことだが、と前置きして、殺人マニュアル所持の正当性を訴えた。彼らは息子の死を無駄にはしまいとして出た行動だったのだ。
すると自身の印象を良くしようともくろんだマスコミは、被害者擁護の立場からL氏の行動を称賛し、彼の意見は正しいと追随した。それは社会的責任にまで発展し、持ち物検査をした先生は謝罪しながら「今後は殺人マニュアルの所持も認める」と言った。
そしたら今度は以前より例の本に興味を持っていた未成年たちが気兼ねなく買うようになり、殺人マニュアルは飛ぶように売れた。類似商品も多数出版された。殺人マニュアルを所持して学校に登校することは今や学生たちのひとつのステータスにもなった。
するとその知識が活用されて、あちこちの学校でいじめが殺人にまで発展するケースや、いじめられた生徒がいじめた生徒に報復する事件が続発し、未成年の犯罪率がぐーんと上がった。
快楽殺人、報復殺人、計画的犯行、突発的犯行、すべての加害者に共通したのは、殺人マニュアルの所持および愛読者だったということだ。
S氏の娘もいじめがエスカレートして手首を切られて殺された人間のひとりだった。
娘の死を悼んだS氏とその妻は、やがて立ち上がって訴えた。
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