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エンリケは、苛立ちを吐き出した。彼のハイトーンボイスが、辺りの静寂を切り裂いた。
その時――。
ザバザバ……と泉に波が立ち、水面が盛り上がる。
驚いたエンリケは、畔に腰を抜かしてしまった。
「――そこの者」
水上に女性が浮かんでいる。
全体的に目映い光りを放つ白い肌、長い金髪に大きな碧眼――噂に聞いていた通りだ。
エンリケは胸の内で小躍りした。
「そこの者。お前は、先程、泉に斧を投げ入れましたね?」
澄んだ音楽にも似た響き――これも、聞いていた通りだ。
「すみません! うっかり手が滑ってしまって」
用意していた台詞。エンリケは、お宝の予感に頬が紅潮するのを感じた。
「……そうですか。では、お前が落としたのは、この斧ですか?」
泉の女神は、冷静にエンリケを見据えたまま、白い腕の中から光り輝く黄金色の斧を取り出した。
「違います!」
元気にハキハキと答える。
「……では、この斧ですか?」
女神は、次に銀色に鋭く光る斧を取り出した。
「違います!」
子どものように意気揚々と、エンリケは首を横に振った。
「それでは、この斧ですか?」
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