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3本目に取り出した斧は、刃こぼれと錆のある、ボロボロの鉄の斧だ。
「はい!! それです、その斧です!」
コクコクと、エンリケは首を縦に振る。
女神は、少し表情を緩めた。
「……お前は正直者ですね。それでは、お前の斧と――この斧も差し上げましょう」
女神は3本の斧をエンリケに手渡した。
「ありがとうございます、女神様!」
ズシリとお宝の重さを受け止めて、エンリケは満面の笑みで答えた。
「……これからも、真面目に励むのですよ」
女神は青白い光に包まれて、スウッ……と幻のように消えた。
見届けたエンリケは、弾む足取りで村に帰った。
このお宝を売れば、家を買って、嫁をもらって……それでも当分遊んで暮らせるだろう。
ところが、エンリケの夢は粉々に砕ける。
彼の出来事は、一気に近隣の村々に伝わった。
それでも懲りない人間が、時折泉に斧を投げ入れに来て、3本の斧を手に入れた。
しかし彼らもまた、期待が叶えられることはなかった。
やがて、泉で一攫千金を目論む者はいなくなり、人間界に平穏な日々が戻った。
人々は、勤労によってのみ富めることを、教訓として知らされた。
* * *
エンリケ以降、泉の女神から与えられた斧は、鉄屑屋が安価で引き取り、鍛治屋に払い下げられた。
「親方ぁ、この斧、溶かしちまっていいんですか?」
下働きのテオが、溶鉱炉の側に転がる美しい斧たちを示した。
「あぁ、全部溶かしちまいな!」
職人頭は、つまらなそうに一瞥し、世話しなく弟子たちに指示を出している。
――ピカピカなのに、もったいないなぁ……。
テオは黄金色の斧を取り上げ、しげしげと見つめていたが、ふと柄に刻まれた文字に気づく。
『MADE IN CHINA』
「……なーんだ」
テオは納得すると、黄金色の斧も、銀色の斧も、次々に炉の中に放り込んだ。
【了】
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