真実の泉

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 そして――目映い輝きと共に、澄んだガラスのような半透明の女性が水上に現れた。  ドレープがたっぷり入った、古代の神々のような衣装。髪も長く、足元まで緩くウェーブしている。  泉と同じ、淡いエメラルドグリーンの全身は、森の精霊をイメージさせた。  驚いたカールは、泉の畔にヘタヘタと座り込んでしまった。 「――そこの者」  静かなハープの音色のような、しかしはっきりと言語と理解できる『声』が、カールを捕らえる。  恐怖は感じなかったが、祖先から叩き込まれてきた自然に対する畏敬の念が、カールを震えさせた。 「……恐れる必要はありません。私は、この泉の主です。お前は、先刻、泉に斧を投げ入れましたね?」  カールは首をブンブンと振り、 「すみません! わざとじゃなかったんです! 手が……滑ってしまって」  と、その場で平伏した。  泉の主は、しばらくカールを眺めていたが、再びハープのような声で語りかけてきた。 「――わかりました。では、尋ねます。お前が落とした斧は、これですか?」  顔を上げたカールの目に、泉の主が腕に抱えた、キラキラ輝く黄金の斧が飛び込んだ。 「め、め、滅相もない! そんなお宝は、見たこともないです」  カールの狼狽え振りに、泉の主は、エメラルドの宝石に似た瞳を細めた。 「では――この斧ですか?」  泉の主の腕の中に抱えていた黄金の斧は、煙のように消え、瞬時にピカピカ輝く銀色の斧が現れた。  カールは再び、首を大きく横に振った。 「それも、違います。そんな立派な斧じゃなくて……」 「それなら、」  カールの言葉を遮ると、泉の主は、銀の斧も消し、粗末な鉄の斧を取り出してみせた。 「お前が落としたのは、この鉄の斧ですか――?」 「あっ、それです! 俺の大切な斧です!」  泉の主は、はっきりと笑みを浮かべると、スッ……と音もなく、カールがいる畔に近づいてきた。 「……お前は正直者ですね。斧は返してあげましょう」 「ありがとうございます!!」  カールは喜んで、恭しく頭を下げた。 「……これ、顔を上げなさい」  促されて泉の主を見上げると、その腕には金銀の斧と、カールの斧、3本が抱えられている。 「お前は正直者なので、この金の斧と銀の斧も差し上げましょう。これからも、真面目に励むのですよ」
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