真実の泉

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 目を丸くしていると、泉の主はパア……ッと緑の輝きに包まれ、余りの眩しさに、思わずカールは瞼を閉じた。  ――遠くで鳥の声がする。  木々の葉擦れがサワサワと耳をくすぐる。  カールは恐る恐る目を開けて、辺りの様子を伺った。  泉は、確かにあるが、もはや水面に輝きはない。  時折、木漏れ日を受けてチラチラ反射するが、深く重い色を湛えている。  既に『泉の主』の姿もなく、ただ一点を除けば、先程までの出来事は白昼夢とさえ思えた。  それは、カールの前に揃って置かれた3本の斧だ。  泉の主から与えられた金銀の斧、そして父親から譲り受けた大切な鉄の斧――。  物言わぬ斧たちが、現実であったことを揺るぎなく語っていた。 * * *  正直者のカールは、この出来事を村長に『正直に』報告した。  直ちに、カールが手に入れた金銀の斧の鑑定が行われ、それらが純金と純銀であることが確認された。  村は、大騒ぎになった。  長年、森に生かされてきた村人たちは、森に対する感謝や畏敬の念は、カール同様抱いていたが、しかしこの村は決して豊かではなかったのだ。  村の有力者たちが何度も会議を重ねた結果、泉の主が再び現れるものか、試みようという結論に達した。  だが、カールの件を受けて直ぐというのもあからさま過ぎる……と年配者たちが慎重になったため、決行は3ヶ月後、という意見でまとまった。  更に、泉の主の言葉に従い、これまでと変わらぬ勤労の精神で過ごすよう、カールに指示が下った。  元より真面目な性分だ。  カールは大量の金銀を得て、巨万の富が転がり込んだとはいえ、生活を変えることはなかった。  斧や道具を磨き、他のきこり同様、数本の大木を切り出す毎日だ。  唯一、変わったことと言えば、弁当を自分で作らなくてもよくなったことだ。  それというのもカールは、とある有力者の1人娘と結婚し、所帯を持てたのだ。  新妻との幸せな日々に、カールは益々森に感謝して暮らしていた。 * * *
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