八万六千四百回を、君と。

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八万六千四百回を、君と。

「ねぇ遊ぼう」 「今忙しい」 「公園で本読んでるだけなのに?本読んでる時も仕事してる時みたいに難しい顔してるんだね」 「……『八万六千四百回』」 「ん?」 「泉鏡花の短編だ。柱時計の振り子が労働に飽きて、突然止まってしまう」 「ほえ~なんか可愛い。てか分厚い本だねぇ。辞書みたい」 「泉鏡花全集の二巻だ。古本屋で買った」 「そうなんだ。君は本が好きだね」 「お前と過ごすのも嫌いじゃない」 「うん、知ってる」 「ところで、お前も読むか?可愛い話は大好物だろ?」 「うん、読むー」 「……時々止まるのもいいかもな」 「ん?」 「今度旅行に行こう。金沢でも」 「わーい。でも何で金沢?」 「泉鏡花の出身地だ。他にも金沢出身の文豪は徳田秋聲、室生犀星、彼らは金沢三文豪と呼ばれていて──」 「君はほんとに本が好きだね」 【end】
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