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そんな話したのはついこの間だ。そして今日もまた彼女を見つけた。
店内に入りおやじに手を上げて挨拶し、大して広くない書架の海を泳いでいると、日本文学の前で背表紙を眺めている彼女がいた。
今日は深緑のワンピース。秋が深まってきた今、これも似合っている。
背中に視線を感じて振り向けば、おやじが慌てて手元の雑誌の値段付けに戻った。
どうしたってこの前の会話が頭をよぎる。おやじめ、余計なことを言うから気になってしようがない。
チラッとまた、彼女を盗み見る。
横顔が可愛い、本の背をなぞる指が細い、長い黒髪が綺麗だ。
分かっているんだ、なぜ彼女のことがこんなにも気になるのか。
初恋の女の子に雰囲気がとても似ているからだ。いい年して照れるしかない。
別に話がしたいなんて思っていない。ましてや援交なんて勇気もないし、そもそも中学生相手にそういう気は全く起きない。
そう、話しかける必要なんてなにもないのだ。
それに、大人しそうに見えるが案外キツイ子で、話しかけたら「ナニこのおっさんキモッ」と思いっきり蔑まれるかもしれない。
だが――。
おやじの視線を背中に受けながらため息をついてみた。
だが、彼女を今後もこの店で見かけるたび、目で追ってしまうこの気持ちは消えないだろう。
袖振り合うも他生の縁か、ことわざはときに人の背中を押すものだな。
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