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新しい我が家に引っ越したのは、確か僕が小学5年生の頃だったと思う。 転校したばかりなのに学校の登校班の班長にいきなり指名されたので、間違いない。 引っ越したのは、二つ上の姉が中学に入るタイミングだった。 姉が、中学一年生の春から新しい学校でスタートできるようにと、両親が考えた結果だ。 一方僕は、小学5年生の春からのスタート。 まあ、こればっかりは、親を恨んでも仕方ない。 自分が二人の子の親になってみて、初めて分かる。 どっちの子も可愛い。 でも子供が二人以上いれば必ず、タイミング的にどっちかを優先し、どっちかに我慢強いる選択をしなきゃいけない時がある。 もちろん親も、そんな後は必ず我慢を強いた子の方に必ずフォローをして、次の機会では、反対の子を優先することでバランスを取っている。 姉から見ても、「なんで弟だけ…」と思ってたことはあるはずだ。 親は苦心して二人のバランスを取っているのに、ただ、子供の方が、我慢を強いられたことしか覚えておらず、不満を募らせているのだ。 本当、自分が親になってみて、それは初めて分かった。 高校の日本史の教師だった父は、その年、中古ながら念願のマイホームを手に入れた。 それまでは街中の小さな賃貸マンションに両親と姉と僕の四人で暮らしていたんだけど、新しい我が家は、郊外の庭付き一軒家。 自然溢れる田舎の広い庭付きの我が家で、姉弟二人のびのびと生活… なんて、僕も姉も全然望んでなかった。 転校して友達と別れるのも嫌だったけど、何より、大抵のものが揃い、刺激のある賑やかな街中から、何もない田舎に引っ越すことが一番嫌だった。 その当時、この新居の周りの住宅はまばらで、一番近くのコンビニにすら徒歩ではいけないようなところだった。 なぜ両親はこの場所を選んだのか。 姉が少し体が弱かったということがあったのかもしれない。少しでも空気の綺麗な場所で、のんびりと過ごさせたい… そう考えたのだろう。 今ではその姉も、残念なことに…。 嫌がってはいても、田舎暮らしと、正に“水が合った”のだろう。 この田舎で親の期待以上に健やかにすくすくと育ち、地元では『踊れない渡辺直美』との称号を持つ二児の母となっている。 高校のまでの姉は、弟の僕ですら、ふとした仕草にドキッとするほどの、か細い“薄幸の美少女”だったのに、今は全く面影はない。
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