大きな本棚

2/6
7人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
僕自身も、いつの間にかここの環境に馴染んでしまっていたのだが、転校してしばらくの間は新しい環境になじめず、放課後は誰とも遊ばず、まっすぐ家に帰っていた。 友達ができなかった訳ではなかったし、むしろ街から来た子を寂しがらせてはいけないという、田舎の子特有のお節介からか、いつも放課後はウザいくらいに外遊びに誘われていた。 でも僕は“街の子”。 友達と遊ぶのなら、川にザリガニ釣りに行ったり、山にアケビを取りに行ったりするのではなく、自室や公園のベンチで、皆がそれぞれ無言でゲームをする時間の方が好きだった。 田舎の新しい友達たちも、ゲーム機を持ってない訳ではなかったが、ゲームよりも外で遊ぶことの方を何より優先するような奴らばかりだった。 そんなこんなで、僕は放課後誰とも約束をせず帰る日々が続いた。 一人家に帰ると母親の目を盗んで、父の書斎に隠れてゲーム機で遊ぶのだ。 ゲーム機は父が管理していたが、隠されている場所を僕は知っていたので、いつもこっそり取り出して遊んでいた。 そんなある日。 それが母に見つかった。 母に注意されたその翌日から、 僕のゲーム機は、その隠し場所を変えられてしまったらしく、いつのも父の机の引き出しから忽然と姿を消した。 「外で遊びなさい。外で!」 母にそう促されても、僕は意地でも外で遊びたくなかった。 “街の子”としてのプライドが邪魔をしていたのだ。 川に入って泥鰌やタニシを取って遊ぶなんて、絶対イヤだ。 母親に追い出されるかのように仕方なく外に出て、新しい友達の遊んでいる河原に行ったものの、見てるだけですぐつまらなくなって、こっそり家に戻った。 母はいつのまにか買い物に出かけてしまったらしく、家は無人だった。 中学生の姉は家庭科部で部活をしてるので、まだ帰ってない。 僕は母がいないのをいいことに、こっそり父の書斎に入り、ゲーム機が元あった場所に戻ってないか、引き出しを開けて確認する。 やっぱりそこには、ない。 他の引き出しも探してみたが、僕が確認できる場所には、どこにも見当たらなかった。 これで、もう僕がゲーム機で遊ぶのを許されるのは、父が仕事から帰ってきてから僕が寝るまでの、ほんの短い時間だけに限定されてしまった。 父が残業しようものなら、ゲーム機が使えないことすらあり得るのだ。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!