甘くて、もたれる

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「おはようございまあす」 支店長に挨拶し、鞄を自分の机の下に押しこむと、わたしは一度事務所を出て、給湯室のシンクの前に立った。 昨夜のポットの残り湯を捨てて水を入れ直し、給湯スイッチを押す。冷蔵庫の麦茶の残量を確認し、雑巾を洗って絞る。 月に一度、一週間交代で、水周り当番が女性社員だけにローテーションで回ってくる。 始業前の雑務のため、その週はいつもより1本早いバスに乗らなくてはならない。 みんなのお茶を作り、ポットにお湯を沸かし、全員の机を拭くのだ。来客があれば、お茶出しやその片付けもする。 「失礼します」 雑巾を持って支店長の席に近づくと、巨漢にして寡黙な支店長は「ん」と言って机の上の荷物をどけた。空いたスペースを手早く雑巾で拭く。 接近した支店長の整髪料のにおいが、鼻を突いた。 明るくこなしてはいるが、なんで女性だけ、という思いは常に胸の内にある。 もしや男性というのは、女性が水仕事を自ら好む生き物だと思っているのだろうか。 女性が家庭の中だけでなく、社会に出ても家政婦的な役割を求められるのは、平成の世が終わっても変わらないのだろう。
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