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その頃はまだ二息歩行を活かしたジェスチャーやアイコンタクトがコミュニケーションが主を占めていて、鳴き声は現在から比べれば、象とアリほどの差があった。しかし、たまたま発見した武器という存在がその状況を一変させる。
動物の歯や骨、鋭利に尖らせた石を用途に応じて使用するようになったのだ。これは彼らの地位を格段に押し上げ、食生活を変化させた。肉食動物に震え怯えていた野蛮な日々から安定してーそれでも狩りは安定していたわけではないー食肉を確保できるようになった。狩る側と狩られる側の立場が逆転した。
安定した肉食生活は身体的にも、精神的にも、人間を昔と全く異なった構造に進化させた。肉は柔らかいため、それまで木の実や草を磨り潰していた出張った巨大な歯は無用の長物となり、代わってこじんまりとした、自己主張に乏しい歯になりを変えた。歯が小さくなると、それに合わせて骨格も後ろへ引っ込み、口内周辺に多様な音色を響かせるだけの空間が生まれた。こうして言葉獲得への道のりに微光が刺したのだった。
言葉は、石や羊皮紙、パピルスなどの記録媒体と共に、一世代で忘れさられるありとあらゆることを後世に効率よく伝える武器であった。知識の蓄積は、新たな知識を生み、知恵の領域を格段に押し広げた。それに伴い、人間の脳は探求者の脳へと様変わりした。
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