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二年前も、小春日和のこのベンチで本を読んでいた。
何度かこの公園の前を通ったけれど、中で過ごすのはあの日が初めてだった。
物語に夢中になっていたときに、私の座っているベンチに近づいてきた男性が、ペットボトルの水とタオルと自転車の鍵を置いた。
ちょっとビクッとしてしまった。
男性はそのまま雲梯に向かうと、雲梯の横棒で懸垂を始めた。
何回も。
すごいなぁと思いながらも、普通の公園とその姿に違和感を感じながら、私は本のページに目を落とす。
でも、なんだか気になって物語に集中できない。
本を閉じて雲梯の方を見たとき、その人の上半身は雲梯の横棒よりも高いところにあった。
鉄棒みたいに横の棒にお腹をあてて、垂らした脚はやや後方に綺麗に伸びている。
(燕みたい。)
そう思ったとき、彼の身体は前廻りをするみたいにクルンと廻る。そしてポケットから、鍵や小銭入れと一緒に一冊の本が落ちた。
(本?)
ピョンと飛び降りたその人は、いろんな物を拾ってポケットに入れるとベンチに近づいてくる。
「いいですか?」
そう聞くと、頷いた私を見てからベンチに座ってペットボトルの水を飲んだ。
私はすぐに膝の上の本を広げて読む。
ちょっとドキドキしていた。
(人間に化けた燕の精が水を飲みにきた!)
心の中でそんなことを考えていた。
「何、読んでるんですか?」
いきなり話しかけられて、心臓が固まる。お父さんとおおじいちゃん以外の男性に話しかけられるのは、数ヶ月ぶりだった。
私がすぐに答えられずに下を向いていたとき、隣の男性がいきなり立ち上がって、小さな植え込みを飛び越えてタコ滑り台に激突して行った。
何が起こったのかわからなかった。鈍い音が聞こえた気がしたけど。
数秒後、燕の精はタコ滑り台の横に仰向けに寝ていた。彼のお腹の上にいた物体が起き上がって、わんわん泣きながらどこかに走って行った。子供?
彼が離したペットボトルが、地面に転がって水を垂らしている。自転車の鍵はベンチの上。彼はまだ寝ている。
私はそうっと近づいてみた。
「あの・・」
恐る恐る声をかけながら、顔を覗き込んだら白目をむいている。
驚いた私は、尻餅をついたまま立ち上がれない。
腰が抜けたという状態だったのかもしれない。
遠くの方から、救急車の音が近づいていた。
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