お持ち帰りは吸血鬼で宜しいですか?

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「あの少女漫画脳め~!」  私は踵を返すと、リビングで手を振る母親に向けてつかつかと歩み寄る。件の横断幕を指差しながら、母親に詰め寄ろうとした、その時。 「ちょっとママ! あの横断幕、一体どういうつもり――」 「何やら騒がしいな。敵襲か?」  やや眠たげな男性の声がリビングに響き渡る。  私が慌てて声のした方を振り返ると、そこには先程私を助けてくれた吸血鬼の青年が立っていた。  しかもご丁寧に、先刻まではなかった、大きな黒い羽を広げた状態で。  青年の予想もしなかった登場の仕方に、卒倒しそうになる私。 (何でいるのよ~! 起きたら上手く誤魔化しながら紹介する予定だったのに! しかも、羽! さっきはあんなの無かったじゃない!)  私は半ばパニックになると、自分でもよく分からない言い訳を口走りながら、青年と家族の間に割って入ろうとする。 「ママ、お兄ちゃん! これは違うの! 仮装! そう、仮装だから! ほら、そろそろクリスマスだしさ! 皆で仮装して騒ごうねって!」  しかし私よりも早く動いた人物がいた。  母だ。  母は私と青年の間に入ると、青年と正面から向かい合う。  そんな母の姿に、青年の身を心配しつつも、内心感動を覚える私。 (ママ……いつも、突拍子もないことを言ったりやったりしてばかりいるけど、やっぱり母親は母親なんだな。私の前に立ちはだかって、守ろうとしてくれるなんて。どうしよう、凄く嬉しい。私もこれからはママを大切にしないと!)  感謝と尊敬の気持ちを込めながら、私は母の背中を見つめる。  すると、母は毅然と青年を見つめたまま、一言。 「ねぇ貴方、その羽本物? 触っていい?」  母は、嬉しそうに問い掛けた。  全力で脱力する私と兄には全く気付かない様子で、母はぺたぺたと青年の蝙蝠の様な羽を触り始めた。 (そうだ、少女漫画好きからしたら吸血鬼なんて定番中の定番、憧れの王子様か。けど、まぁ、これで良かった……の、かなぁ?)  幸せそうな母の様子を見つめながら、彼が通報されなかった安心感に、ほっと胸を撫で下ろす私。  それでも頭の中では、最早彼の正体がバレてしまった以上、事の顛末をどうやって説明しよう――そんな不安が燻り続けているのだった。
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