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空が茜色に染まる頃、今日の部活は終了した。結局、一度もバーを超えることは出来なかった。
「美希~、帰ろう。」
「あ、今日はもう少し残って練習するから先に帰っていいよ。」
手を振って友達を見送る。そして高飛びの練習を再開した。何度か飛んでみる。でもやっぱり飛べなかった。
「何が悪いんだろう?」
マットの上に倒れたまましばらくボーっとする。
「がむしゃらに飛んだってスランプは治らないぞ。」
「先輩!」
起き上がって声がする方を見ると、制服に着替えた陸先輩が立っている。そして私の方に近づいてきてマットの上に座った。
「美希、今高飛びをしてて楽しいか?」
「えっ。」
楽しい?そういえば飛ばなきゃという気持ちでいっぱいで最近は全然楽しんでなかった。
「どうせ次も飛べないかもとか考えながら飛んでないか?せっかく空を飛ぶんだからちゃんと空の景色を楽しまなきゃ、な。」
「最近は良い記録を出さなきゃって追い込まれてたかもしれません。」
私は下を向きながら小さな声で言った。すると先輩はスッと立ち上がり、制服のシャツを捲り上げる。
「美希、ちょっと退いてろ。」
そう言われて私はマットから離れた。陸先輩は少し離れたところへ行き、屈伸しながら体をほぐしている。
『陸先輩、飛ぶつもりだ。』
予想通り、陸先輩はバーを見ながら助走を始める。そしてバーの手前で力強く踏み切り背面跳びで空を飛んだ。
「うわぁ。」
綺麗にふわっと飛ぶ先輩に見惚れて思わず声がでる。 マットの上にポスッっと背中から着地すると、陸先輩はすぐに起き上がり私の方を見てきた。
「俺、飛べた?飛んでたよね。やっぱ高飛び楽しいわ~。」
無邪気な笑顔で喜んでいる。今回は女子用に低くなっていたバーだが、それでも陸先輩はテンション高めになっていた。
私はマットの上にいる陸先輩の横に座る。すると陸先輩は私に向かって話し始めた。
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