プロローグ 本能寺の変

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 剣幕に押されて起き上がったところ、彼女は布団の脇にあった短めの日本刀をおれに渡してきた。 「ヌシは脇差を……太刀(たち)は必要あるまい。奥へ急げ!」  彼女は、刀置きに残された大ぶりの日本刀にきつい視線を送ると、提灯(ちょうちん)片手におれの左腕を取って、急ぎ足で暗い板張りの廊下を導いていく。  まったく、何が何だか意味が分からない。遠くから、金属と金属がぶつかる音や、喚声のようなどよめきが散発的に聞こえてくる。  大ピンチなことは間違いないだろう。 「何が起こってるのでしょう?」  おれを先導している彼女に問い(ただ)す。 「考えるのは後じゃ! だが、明智日向の軍勢がワシらを討ち取ろうとしている。まあ、ここでよかろう」  歩みを止めた彼女は廊下の脇の引き戸を開けて、一室におれを導き入れる。そして素早く戸を閉めて、手頃な棒で固定した。  貯蔵庫なのだろうか。樽のようなものがいくつか見てとれた。  またもや明智日向守(ひゅうがのかみ)光秀か。間違いない。ここは本能寺なんだ。  だとすると、おれは織田信長で討ち取られる運命なのか。  嫌だ、夢なら覚めてくれ! 「何でこんなことに……」  おれが呟くと、彼女は提灯と腰に差していた脇差を床に置いて、おれをきつく抱き締めてきた。     
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