プロローグ 本能寺の変

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プロローグ 本能寺の変

「一大事じゃ! 早く起きるのじゃ!」  甲高い女性の声と同時に、乱暴に肩を揺さぶられて目が覚めた。 「えっ? 何があった?」  寝起きの働かない頭で何とか答える。重い瞼を開けると白い服を身にまとった女性が、おれの顔を覗き込んでいた。  全く記憶にない若い女性の顔。白い着物にポニーテールが似合う美人だ。誰だよ、いったい。 「ぬかったわ! 明智(あけち)日向(ひゅうが)謀反(むほん)のようじゃ。早く起きろ!」  え!? 明智日向といえば、明智光秀。歴史に残るクーデター、本能寺の変の首謀者だ。得意の歴史に関するフレーズを彼女が口にしたため、段々と脳が活性化してきた。  おれを起こした若い女性が白い着物を(ひるがえ)して、部屋の隅二ヶ所にあった照明の行灯(あんどん)を乱暴に蹴倒す。薄暗かった畳敷きの部屋の床にこぼれた灯油が引火して、オレンジ色の炎が揺らめいて周囲を照らし始める。 「一体何を……?」  女性の乱暴な行動に思わず問いかけたおれに対して、 「知れたこと! 表は小姓たちがしばし支えるであろう。ヌシも早く起きて奥へ行くぞ!」  彼女は真剣な眼差しの強い口調で叱りつける。 「分かった」     
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