第一章

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「いやほら、あの、そう! 昨日初物のお野菜分けてもらったから、これからスープにしようと思ってて。せっかくの新鮮なお野菜だもの、一人で食べるのもつまらないなーって。それに、祠に行くならうちからの方が近いし、たまには私も行きたいし、お互い一人のごはんよりおいしいかな! なんて......」  ど、どうかな? アニールはそう続けると、かけた眼鏡の隙間から覗くような上目遣いでマルコを窺った。 「うーん、どうしよう......」  止まっていた手を動かして、鍋一杯にミルクを移し終えるマルコは、鍋の中で揺れるミルクを見つめた。それからアニールに向き直り鍋を手渡す。 「そうですね、呼んでもらえるなら喜んで」 「そう? よかった! 来てくれるなら、うんと丹精しなくちゃ」  受け取ったミルクを手に、アニールは笑顔を作った。その様子になんだかこっちまで嬉しくなるマルコは、ただ呼ばれるだけでは良くないとパンの用意を申し出る。 「なら、そのスープに合う焼き立てのパンを持ってきます。さっきパン屋のモゥイさんが、今日のエンパナーダは一味違うぞ! って、誇らしげでしたから」 「そんな! 私から誘ったのに、悪いよ」 「いいえ、せっかくの料理なんです。僕が用意できるものがパンくらいしかない方が申し訳ないですから」  話をしながらミルク代を受け取って、自分の着るツナギのポケットへ落とし入れる。すぐ後ろに置いたブリキ缶の蓋を閉め、荷車へと乗せた。 「じゃあ、この後のミルクを売り終わったら道具を戻して、色々用意してからお邪魔します。――あ、コレっていうパンがあれば教えて下さいね」 「ううん、マルコが選んだものなら何でもいいよ」 「そうですか? なら、美味しそうに見えるものを幾つか見繕ってきますね」  マルコはそう言うと軽く会釈をして、「じゃあ、また」と荷車を再び引き歩く。ガランと響かないベルを鳴らして荷車を引くマルコの後姿に暫く手を振っていたアニールは、胸の横でぎゅっと手を握ってから嬉しそうに家へと駆け戻った。  πππ  牧場にマルコが戻ってくる前のこと。  朝のお勤めが終わってやることと言えば、彼女には年中食っても何故か食べ尽くせない牧草を食むことと、時折戻ってくるそれらを反芻すること、そして集ってくる虫を腰に垂れ下がる尻尾で追い払うことくらいで、それ以上の何かを積極的にしようなんて考えることはなかった。
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