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「いえいえ、その眼鏡、ちょうど僕のと似てたんで記憶に残ってたんです」
見ると男性の眼鏡も同じような黒縁だ。
「本当だ、私のとお揃いみたい」
私たちは互いの眼鏡を見比べ、同時に笑った。年甲斐もなくはにかんでしまった。
「今日は事務所の時と違う感じですね。こっちの方が合ってると思いますよ」
私は顔が赤くなるのがわかった。買ったばかりのワンピースが誇らしかった。
「この後、なにか予定ありますか?よかったら、一緒にランチでもどうですか?ぶつかってしまったお詫びに」
私は一瞬戸惑った。男性から食事に誘われるなんて、本当に久しぶりだ。
ほぼ初対面の相手とランチなんて……と普段の私なら断ったかもしれない。
でも、今日は違う。私には恋をよぶ眼鏡がある。
この黒縁眼鏡とトレンドカラーのワンピースを身に着けた私には怖いものなんてない。
私は勇気をだして頷いた。作り物でない笑顔とともに。
「ええ、ぜひ!」
米田さんもぱっと笑顔になり、それを見た私は胸に暖かな気持ちが広がっていくのを感じた。
今夜、香奈への報告の電話はとても長くなりそうだ。
疑ってごめんね、と私は黒縁眼鏡と親友に心の中で謝った。
「イタリアンとかどうです?近くにいい店があるんですよ」
私は再びずり落ちてきた黒縁眼鏡を押し上げ、米田さんと肩を並べて歩き出した。
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