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「ルイ子、これはただの眼鏡じゃない。『恋をよぶ眼鏡』なの」
香奈はいたって真剣な顔で、なんとも胡散臭いことを言った。
香奈と私は高校の同級生で、今年で二十七歳。香奈はハッキリした顔だちにキッパリした性格で、先月結婚したばかりの新婚さんだ。
「信じられないだろうけど、本当に本当なのよ。私はこれで幸せを掴んだの。だから、次はルイ子の番よ!」
私は無理やり渡された眼鏡ケースを開けてみた。中から出てきたのは、なんの変哲もないただの黒縁眼鏡だった。
「意外と普通だね……?」
「当り前よ!ピンク色やハート型だったら外で使えないじゃない」
ちょっと引き気味の私に、香奈はなおも迫ってくる。こういう時、香奈の大きな二重の瞳は絶大な目ヂカラを放ち、他を圧倒する。
「これはね、鯖江市の伝説の眼鏡職人が、死ぬ間際に最後に作った眼鏡なの。職人さんの魂が込められているのよ!」
鯖江市が眼鏡で有名なことは私でも知っているが、それにしても無理がある設定だ。婚活中に亡くなった職人さんだったのだろうか、と思ったが口にしなかった。
「とにかく!しばらくはそれをかけて生活してみて!効果は私が補償するから!」
結局、いつものように押し切られてしまった。地味でインドア派で、もう何年も彼氏がいない私を香奈が心配しているのは本当だ。
伝説の眼鏡職人のあたりは作り話だと思うが、新婚さんからの幸せのおすそ分けだと思うことにした。
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