恋をよぶ眼鏡

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「先輩!その眼鏡どうしたんですか?」  翌朝。事青空設計事務所にいつものように出勤すると、後輩のリナちゃんに早速声をかけられた。 「友達にもらったの。『恋をよぶ眼鏡』なんだって」 「えー?先輩ってそういうの信じるタイプだったんですかー?意外!」 「信じてはいないんだけど、なんとなくね」  いまいちサイズの合わない眼鏡を押し上げながら苦笑した。  リナちゃんは今時の女の子だ。キラキラしたネイルと巻き髪が様になっている。ちょっと口が悪いところがあるが、素直でいい子だ。 「そうだ先輩!この前のレストランのオーナーが、もうすぐ打ち合わせに来るそうですよ。準備しなきゃ!」  こういう場合、リナちゃんが壁紙のサンプルなどの資料を揃え、私がコーヒーを淹れることになっている。リナちゃんはコーヒーが苦手なので、美味しい淹れ方がわからないのだそうだ。   打ち合わせが始まり、私はいつものように気配を消しながらコーヒーを運んだ。  テーブルに広げられた書類の邪魔にならないように、そっとカップを置いた時……  ぼとっと大きな音をたてて、眼鏡がテーブルの上に落ち、よりによってクライアントの足元に転がっていった。  和やかに進んでいた打ち合わせが中断され、全ての視線が私の眼鏡の行方に注がれた。  私はあわてて眼鏡を拾い上げ、 「し、失礼しました!」  と言い残し、その場から逃げ出した。顔から火が出る思いだった。 「先輩、それ伊達眼鏡ですよねー?サイズも合ってないし、プライベートでだけ使うってした方がいいんじゃないですかー?」  リナちゃんにまで呆れられてしまい、私はさらに落ち込んだ。そして、呪わしい黒縁眼鏡を眼鏡ケースに封印し、通勤バッグに放り込んだ。
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